第5回日本語部門選評

第八回 星と森国際短歌大会英語部門選評

ー「音」という歌題にて ー

今年は星と森短歌大会に送られた多くの応募作品を読むことができて、私にとっては大きな喜びとなりました。
しかしながら、「短歌」と銘打っているにもかかわらず、また伊藤一夫氏がコンテストの特徴とルールを注意深く示してくださっているにもかかわらず、日本人からの応募作品も外国人からの応募作品も、その多くが明らかに短歌の正しい形(5-7-5-7-7、計31音節の詩)を成していないことに、私は驚きました。
その代わり、多くの人々が「自由詩」や「俳句」や他の形の詩を書いています。そのような不注意な作品は、その場で失格とされました。
この結果、不幸にも、真の短歌を作ろうとする努力の成果としての作品は、とても少なくなってしまいました。残された作品の中から最終審査に進むべき6首を選ぶのは困難でした。またそのどの作品も大賞にふさわしいものはありませんでした。そこで、私は次に優秀な3首を選びました。
今年のテーマは「音」でした。とても範囲が広く魅力的な主題であり、また詩は音から作られているということもあって、詩のコンテストのテーマとしてとても良いものでした。ワーズワースは彼の有名なソネットの中で「雨の音、そして蜂が静かに飛ぶ音…」について書いています。詩人は言葉や名前の音で遊ぶことが好きで、しばしば鳥のさえずりや流れる水音を真似ようとします。参加者の多くがこの難しい作業をしようとしましたが、形が不備なこと、また英語のボキャブラリーが間違っていたことにより、失敗してしまいました。

そのようなわけで、ベスト3首を選ぶのは時間のかかる困難な作業でした。「音がないこと」をテーマにした作品も2、3あり、興味深いとは思いましたが、最終的には音の性質や意味を解釈しようとした3首を、私は選びました。





1) In the lukewarm pool
slowly swimming a crawl stroke
nostalgic and mild
come the sounds I used to hear
in mother’s womb long ago
(大意) なまぬるいプールの中を
ゆっくりとクロールで泳ぐ
どこか懐かしく穏やかな
かつてよく聞いた音がする
昔、母の子宮の中で

普遍的なテーマをもった良い短歌です。海の泡を意味する名前を持つギリシャの女神アフロディーテのように、人間も深い海から生まれてきました。このすばらしい短歌の作者は、プールでゆっくりとクロールで泳いでいる時に聞く音が自分が生まれたときの音だと、いかに突然気がついたかということを詠み、そうすることで我々にこの伝説を思い出させてくれます。それは誰でも泳いでいる時には聞く何でもない音です。しかし、この音は突然彼女に、母親の子宮から出てきた時のこと、「どこか懐かしく穏やかな」音の中の誕生の非日常的な光景を思い出させるのです。とても美しいアイディアが単純な言葉で良く言い表されています。そしてこの詩人がとてもはっきりと覚えている「音」は、私たちが誰でも母の子宮の中で最初に聞くけれども忘れられてしまう原始の音なのです。私たちは人間の最初の経験の普遍的性質を私たちに思い出させてくれたこの短歌とその作者に感謝します。この短歌は深い女性的な洞察力に満ちています。いったい男性はこのようなテーマで短歌を書くことができるだろうか、と私は考えてしまいます。



2) I have listened to
the sound of one hand clapping.
It’s nothing special.
But the sound of two or more
sings of how the world was born.
(大意) 私は聞いたことがある
片手が叩く音を
特別なことではない
しかし2つあるいはそれ以上の手の音は
世界がどのようにして生まれたかを賛美する

美しい哲学的なアイディアを簡単な言葉で上手に表現した短歌です。私はこの短歌の正直なところ、特に驚くべき3行目が好きです。最後の行は、永遠なる自然と、私たちを取り巻く世界のあらゆる様相と人間とのコミュニケーションの必要性を、私たちに語っています。言葉はシンプルで、今日のような戦争に引き裂かれた時代おいて、「世界が生まれた」ときと同じ平和と国際理解への願いを聞くのです。



3) Tonight spring fishing
he cuts the outboard motor -
now only the sound
of water lapping the boat
and the splash of a catfish
(大意) 今宵、春の釣り
彼は船外モーターを切る
今や聞こえるのは
水がボートを叩く音と
鯰が跳ねる音だけ

短歌の形を守って作られた短歌の良い例です。そして音と沈黙の両方を描く強いイメージを持っています。リズムと音楽的な質に合わせた言葉を注意深く選んでおり、詩全体は人間的な、また自然な詩の雰囲気を持っています。



James Kirkup
ジェームズ カーカップ
署名


訳責:青柳 祐美子
翻訳日:2006年6月20日

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