第五回 星と森国際短歌大会日本語部門選評
「雪」は古来私達日本人の感性を多様に刺激してきました。雪ははかなくて美しいもの、何かひたすらなもの、激しくて、やさしくて、また安らかなもの、そして何より清らかさを連想させるものですが、それが今の時代にどのように詠まれるかは、私達選考委員の関心を大いにかきたてました。
冷たい雪と熱い思いとが融和した世界……
清らかな雪の前で解き放たれていく執着……
時が停止したかのような静かな雪の中に広がる、永遠の光景……
さらに思いがけない発見への期待で選はすすめられました。 |
星と森大賞に輝きました、かがみゆみさんの、
雪の降る 匂いを感じる ひとと居て 自分を信じて みようと思う
| この歌は、まだ何色にも染まっていない若い人が、自分の未来をたくすものと出会い、その喜びを繊細にうたいあげた秀歌です。作者がたくそうとしたものは、「雪の匂いを感じる人」であると同時に、その人を受け入れた自身に対する信頼でしょう。人は見たもの、聞いたものを信じることはできても、匂いを人生の中心的動機に位置づけることには勇気がいります。このような感動を歌える作者はおそらく芸術家であり、その一流の感受性が私達に深い共感を起こさせました。調は口語体ですが品位を失っておらず、伝統短歌の流れを受け継いでいます。 |
副賞に選ばれました、田村史津子さんの、
さやさやと 降り積む雪に 晒されて わたしは小さな 繭玉になる
| とても音楽的で、Sの音がよくきいた、さわやかな乾いた情緒をうたいあげています。この歌には極まった変身の予兆が感じられます。作者はおそらくこれまでの自分の人生を想い、ある決意のもとに何かを捨てようとしているのでしょうか。生きることへのまじめな問いが、答を得ようとする焦りとしてではなく、ただ雪に問う姿勢で歌われており、いつしか作者と聞く者の心を癒していきます。まっ白な雪の前で自我を停止させ、より大きな何かと一体となった時に詠まれた歌であることがわかります。 |
副賞に同じく選ばれた垣内貞さんの、
初雪と ともに降りくる 観覧車の 少女の手話は 恋を告げおり
| まるで手に取るようにその情景が浮かんでくるこの歌は、一瞬の光景の中に永遠の時がひそんでいることを私達に気付かせてくれます。作者の人間の営みに対する無条件の愛がこの歌の命です。少女の恋がもしも挫折する運命にあったとしても、それを見守り、歌にとどめることで、作者は少女の人生、そして自身の人生をも肯定して受けとめることが可能となるのです。叙情性にも優れた歌であり、ゆったりと大きく歌われた調べは非凡です。 |
以上簡単ではありますが、入賞歌の選評といたします。
平成十五年七月五日
星と森国際短歌大会 日本語部門審査部 |