第三回 星と森国際短歌大会日本語部門選評
回を重ねるごとに投稿いただいた歌の質が非常に高くなってきております。
そうした中から三首が入賞作として選ばれました。
「風」という題は、一見わかりやすく思えるものの、実は難しい題であると私共は考えておりました。風は直接、目に見えるものではありませんから、それを歌い上げるためには、風の動きを物を通して見る以外に、耳で聴く風、肌でとらえる風、風が運ぶ香り、そして風とたわむれたり風が記憶を呼び醒ますなど、視覚以上のリアリティを通さねば深く詠むことはできないと考えたのです。おそらく目で見る風は数多く歌われるであろうと推察されました。願わくば、肌を通して風を詠み、鼻を通して詠まれる風への期待が膨らんでいきました。しかし魂を震わせるレベルの風は残念ながら詠まれておりませんでした。 |
地に低く 風遊ぶらし この夕べ 蚊屋吊草の穂のそよぎをり
(地に低く風が流れる夕べ 蚊屋吊草の穂は揺れていた。英訳用大意)
| 3番目に選ばれた金谷博(カナヤ ヒロシ)さんのこの歌は、蚊屋吊草の穂が揺れることを通して風を歌った、視覚の歌と言えます。大変整っていて美しい響きはありますが、未だ理性を超えていません。「風遊ぶらし」と客観視するところはとくに、風と我との深い関わりを避ける表現で、理性の限界を感じさせます。ただ音曲となった際の美しさは秀でております。 |
身に近く やにはに蝉の 来鳴きけり 秋風ぞふく この夕かげに
(夕かげに立つ私のそばに 秋風と共に蝉が飛んできて鳴きはじめた。)
| 2番目に選ばれた内池三郎(ウチイケ サブロウ)さんのこの歌は、風を歌ったというよりも、蝉を歌っている面がやや強くなっております。しかしながら詠者の秋風に対する思いを、私たちも想像したくなってまいります。詠者が感じた秋風を共に感じ、共に秋を悲しみたくなる共感の創出に成功しています。 |
コスモスの 花明かりする 南窓 風しみじみと 娘の婚約す
(コスモスが咲く南窓は明るく輝く。風がしみじみとふく中、私は娘の婚約を知る。)
| 星と森大賞に選ばれた神戸薫(カンベ カオル)さんのこの歌は、他の2つの入賞歌と較べて、歌の巧さという意味では劣ります。しかし不思議な魅力がある良い歌で、理屈を超えた声の言葉としての力があります。初句にOが3つ。二句にAが4つ。三句にMが3つ。四句にIが4つ。結句はOが3つ、Kが3つあり、構成面からも声のリズムが言葉となっていることがうかがえます。また「コスモス」「花明かりする」「南窓」も、すべて風にかかり見事に主題に集約されていきます。可憐で明るく暖かい風がしみじみと趣き深く感じられ、我が娘の婚約に際しての父親の心が、ほのぼのと歌われております。 |
以上簡単ではありますが、入賞歌の選評といたします。
星と森国際短歌大会 日本語部門 審査部 |
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